※2026年10月6日時点で確認できた研究・公的データをもとにまとめています。本記事には広告(PR)が含まれます。
✓ イルカの水分補給の中心は、海水を飲むことではなく「エサに含まれる水分」と「体の中でつくられる水(代謝水)」です
✓ 2023年の研究では、飼育下のバンドウイルカとシャチで、この2つが体に入る水の90%以上をしめると推定されました
✓ イルカは海水より濃い尿をつくれる腎臓を持ち、海水を少し飲んでも塩分を出せます。ただし、海水を積極的に飲む行動はあまり見られません
✓ 人は海水を飲むと、かえって体の水分を失います。イルカとの違いは、腎臓のはたらきと食べ物にあります
海で暮らすイルカのまわりには、水がたっぷりあります。でもそれは塩辛い海水。私たち人間が海水を飲むと、のどの渇きはかえってひどくなります。では、イルカはどうやって水分補給をしているのでしょうか。「海水をそのまま飲んでいるの?」「真水はどこで手に入れるの?」と、不思議に思ったことはありませんか。
この記事では、イルカの水分補給と海水の関係を、学術論文(米国医学図書館のデータベースPubMedに収録された研究)や、文部科学省の食品成分データベースをもとに解説します。分かっていることと、まだ研究が続いていることを分けて紹介します。
- イルカは海水を飲んでいるの?
- 真水がない海で、どこから水分をとっているの?
- イルカの腎臓は人とどう違う?
- ほかの海の生き物はどうしている?




イルカは海水で水分補給している?答えは「ほとんど飲まない」
まず結論です。イルカは、海水を飲むことを水分補給の中心にはしていません。
海の哺乳類の水と塩分の調節(浸透圧調節)について、それまでの研究をまとめた総説(Ortiz, 2001年, 学術誌Journal of Experimental Biology)では、アザラシなどの鰭脚類やクジラ・イルカの仲間は「いくつかの例外を除き、水を飲む行動は一般的ではない」とされています。そのうえで、水分のバランスは代謝でできる水と、食べ物に含まれる水で保たれていて、たまたま口に入る海水や食べ物の塩分が、体の電解質(ナトリウムなど)のバランスを保つのに役立っている可能性がある、とまとめています。
つまり、イルカは「海水を飲んで真水に変えている」のではなく、「そもそも食べ物から水をとっている」というのが、今の研究で分かっていることです。
同じ総説によると、海の哺乳類の中でも、ラッコはよく海水を飲み、マナティーはよく真水を飲むなど、種類によって違いがあります。
イルカの水分補給4つのルートと割合
では、イルカの体に入る水は、どこから来ているのでしょうか。2023年にフランスの研究チームが発表した研究(Séonほか, Journal of Experimental Biology)は、この問いに数字で答えようとしたものです。
研究チームは、フランスの水族館「マリンランド」で飼育されているシャチ4頭とバンドウイルカ9頭の血しょうを調べ、酸素の同位体(重さの違う酸素)の比率から、体の水がどこから来たのかを計算しました。論文では、クジラ・イルカの仲間が水を得る方法として、次の4つが挙げられています。

| 水が入るルート | どんなもの? | 研究で分かったこと |
|---|---|---|
| ① エサの水分 | 魚やイカなどに含まれる水 | ②とあわせて、体に入る水の90%以上 |
| ② 代謝水 | 脂肪などを体の中で燃やすときにできる水 | 脂肪の多いエサを食べる動物ほど、代謝水の割合が大きい |
| ③ 海水 | エサといっしょに口に入る海水、皮膚から入る水 | ④とあわせて残りの約10% |
| ④ 水蒸気 | 呼吸で吸いこむ空気中の水分 | ごくわずか |
この研究によれば、エサの水分と代謝水が、体に入る水の重さで90%以上をしめていました。残りの約10%は、吸いこんだ水蒸気や、たまたま飲みこんだり皮膚から入ったりした海水と考えられています。
ただし、この研究は飼育されている13頭を調べたものです。野生のイルカは、食べるエサや泳ぐ距離がちがうため、割合が変わる可能性もあります。それでも、「海水を飲むのは主な方法ではない」という点は、それまでの研究とも一致しています。
エサの水分:魚やイカは水分たっぷり
イルカのおもなエサは、魚やイカです。実は、魚やイカの体の大部分は水です。文部科学省の「食品成分データベース」で、身近な魚介の水分量を見てみましょう。
| 食品(生) | 100gあたりの水分 |
|---|---|
| するめいか | 80.2g |
| まあじ(皮つき) | 75.1g |
| まさば | 62.1g |
イカなら重さの約8割、アジなら約4分の3が水です。イルカは毎日たくさんの魚やイカを食べるので、食べることがそのまま水分補給になっているわけです。
もちろん、エサにも塩分は含まれています。後で紹介する実験では、海水といっしょにエサ(たんぱく質)をとると、イルカの尿はさらに濃くなりました。イルカは、エサから水を受け取りながら、余分な塩分を腎臓で尿として外へ出しているのです。
代謝水:体の中でつくられる「もうひとつの水」
もうひとつの大切な水が代謝水です。私たちの体も、食べ物に含まれる脂肪・炭水化物・たんぱく質をエネルギーに変えるとき、二酸化炭素といっしょに水をつくり出しています。この水が代謝水です。
Séonらの研究では、脂肪の多いエサを食べる動物ほど、代謝水の割合が大きいようだと報告されています。脂肪は、エネルギーに変わるときにできる水の量が多い栄養素です。イルカは厚い脂肪層を持ち、脂ののった魚も食べるので、体の中でつくる水も水分補給の大きな柱になっています。
イルカの腎臓のひみつ:海水より濃い尿をつくれる
では、イルカは海水を飲んだらどうなるのでしょうか。ここで大事になるのが腎臓です。
ブドウのふさのような腎臓
クジラ・イルカやアザラシの仲間の腎臓は、「小腎(レニクル)」と呼ばれる小さなかたまりがたくさん集まった、ブドウのふさのような形をしています。陸の哺乳類では、クマなどをのぞいて見られない形です。Ortizの総説では、この形のちがいが、そのまま尿を濃くする力の高さにつながるわけではない、とされています。
尿の濃さは海水以上
同じ総説では、クジラ・イルカの仲間も、海水より濃い尿をつくれるとまとめられています。日本大学の研究チームがバンドウイルカの尿を調べた研究(Suzukiほか, 2008年)では、尿の濃さ(浸透圧)の平均は約1,716mOsm/kgで、比較的濃い尿だったと報告されています。
体から出す尿が海水より濃ければ、海水を飲んでも、入ってきた塩分を水を失わずに外へ出せる計算になります。人の腎臓はそこまで濃い尿をつくれないため、海水を飲むと、塩分を出すために体の水分を使ってしまい、のどの渇きがひどくなります。
海水を飲ませた実験では?
アメリカでは、飼育されているバンドウイルカ8頭に真水や海水を飲ませ、血液や尿の変化を調べた実験があります(Ridgway・Venn-Watson, 2010年)。真水を飲むと尿の量が増え、尿はうすくなりました。海水を飲むと、尿の量とともに尿中のナトリウムや塩素が増え、尿は濃くなりました。研究チームは、イルカは真水でも海水でも、尿の濃さと塩分の出し方を変えることで、体の水と塩分のバランスを保っているようだと結論づけています。
一方で、海水といっしょにたんぱく質(エサ)をとると、尿の成分はさらに濃くなり、浸透圧の調節は限界に近づくと考えられる、とも述べています。イルカにとっても、塩分の処理はけっして楽な仕事ではないのです。
ほかの海の生き物はどうやって水分補給している?
海の生き物の水分補給の方法は、ひとつではありません。研究で分かっている例をくらべてみましょう。
| 生き物 | おもな水分のとり方 |
|---|---|
| イルカ・クジラ | エサの水分と代謝水が中心。飲む行動はあまり見られない |
| ジュゴン | 海草(エサ)の水分と代謝水で足りていると考えられている |
| ラッコ | 海水をよく飲む |
| マナティー | 真水をよく飲む |
| 海鳥 | 鼻のあたりにある「塩類腺」から、濃い塩水を出して塩分を捨てる |
オーストラリアの野生のジュゴン51頭を調べた研究(Smollほか, 2020年)では、尿の濃さの最大値は海水より濃く、海水を飲んでも水を得られる力はあると考えられました。ただ、平均の尿の濃さから見ると、海水を飲むことは重要な方法ではなさそうで、エサの海草の水分と代謝水で足りている可能性が高いとされています。イルカとよく似た結論です。
一方、海鳥のように「塩類腺」という特別な器官で余分な塩分を捨てる動物もいます。海の生き物は、それぞれのやり方で「塩辛い海で水を保つ」という難題を解いているのです。
水族館でイルカを見るときのポイント
水族館では、イルカのトレーニングやショーで、トレーナーが魚を与える場面をよく見かけます。イルカの水分補給の中心がエサの水分だと知っていると、あの魚が、栄養だけでなく水の補給にもなっていることが分かります。
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よくある質問
Q. イルカは海水をまったく飲まないのですか?
A. まったく飲まないわけではありません。エサといっしょに海水が口に入ることはあり、2023年の研究では、こうした海水や吸いこむ水蒸気が、体に入る水の約10%と推定されました。ただし、海水を積極的に飲む行動は一般的ではないとされています。
Q. イルカに真水を与えても大丈夫ですか?
A. 飼育下のバンドウイルカに真水を飲ませた実験では、尿の量が増え、尿がうすくなることで体のバランスが保たれていました。ただし、飼育動物の水分管理は獣医師や飼育の専門家が行うものです。
Q. イルカのおしっこはしょっぱいのですか?
A. バンドウイルカの尿を調べた日本大学の研究(2008年)では、尿中のナトリウムは平均で1リットルあたり約490ミリモルと、塩分の濃い尿でした。濃い尿で塩分を出すことで、体の水を節約していると考えられています。
Q. 人も魚を食べれば海で水分補給できますか?
A. 人の腎臓はイルカほど濃い尿をつくれないため、イルカと同じようにはいきません。海水を飲むと体の水分がかえって失われるので、飲み水は必ず真水を用意してください。
まとめ:イルカの水分補給は「食べること」
イルカは、塩辛い海水を飲んで水分補給をしているわけではありません。水分のほとんどは、魚やイカに含まれる水分と、体の中で脂肪などを燃やしたときにできる代謝水でまかなっています。さらに、海水より濃い尿をつくれる腎臓のおかげで、口に入った海水の塩分も外へ出せます。「食べることがそのまま水分補給」というしくみが、海で暮らすイルカを支えているのです。
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